日本のチェロの技術の歴史を垣間見ると、圧倒的に弓を深く持つ方≪写真3≫が源流のように思えます。何人かの先輩の先生(特にフランスで勉強されてきた)方は、浅く持っておられる方もいらっしゃいましたが、深く持っている方のほうが圧倒的に多かったと思います。ですから、現在日本の全てのチェリストを調べてみたら(実際には調べていませんが、今までの経験で)、8割位のチェリストが深く持っているのでないでしょうか。 この事が、コラムを書く大きな動機になっています。弓を深く持つ事に異議を申し立てるつもりは毛頭有りませんが、浅く持つ事の意味≠ぜひ理解していただきたいのです。その意味するところは、決して見た目とか綺麗さではなくて、人間がチェロを自然に理論的に弾くにはどうしたらいいのかという、頭でも体でも理解できる理論なのです。

          

 皆様の中には子供の頃、ピアノを習った事がある人がいると思いますが、思い出してください。ピアノの最初のレッスンで 『鍵盤の上で軽く握り拳を作り、そっと開いて中に玉子が入っているような形を作ってください。』 と言われませんでしたか?あのピアノの上の手の形とチェロの右手にはある共通点があります。それは、手のひらにある空間なのです。ピアノの手のひらにある空間≠ヘやさしく、時には激しく鍵盤をたたくピアニストの指をいたわる空間≠ネのです。あの空間≠アそがピアニストのショックアブソーバーの一部になっているのです。チェリストにとって、弓を浅く持って手のひらの空間≠作ることの意味は2つあります。その2つこそ、私が今回このコラムを通じて言いたい柱なのです。

 まず1つ目です。それは空間を作ることにより、≪腕の重さを支えるエアークッション・ショックアブソーバーの働きをしている≫と言う事です。後で詳しく説明しますが、チェロのff≠ゥらpp≠ワでの音量の変化は、腕の重さをどの位かけるかによってできる変化なのです。決して人差し指で弓を押さえつける、てこの作用による音量の変化ではありません。ですから、その立派な腕の重さがかかった時に、この手のひらの空間≠ェエアークッションになるのです。この役割を担っているのが、指の付け根の部分≪写真4≫です。このラインで腕の重さを支えています。この部分のエアークッションを上手に利用すると、どんなに腕の重さをかけても雑音にならずに楽音として成立するのです。

          

 次に2つ目ですが、1つ目は上下の変化だったのに対して、2つ目は横の変化です。これも後で詳しく説明しますが、指の付け根の部分≪写真5≫横の変化こそ、実はボーイングのアップとダウンなのです。前回、『親指を弓に対して45°にすると、手の甲は自然に左45°を向く。これは重要なことだ。』 と申し上げましたが、45°左を向いている手の甲こそが、左右のズレに対応できるのです。もし手の甲が真上を向いていたら、人間の指の付け根は左右にズレにくいのです。≪写真6≫また、指の付け根の部分の左右のズレは、自分で意識して出来るものではなく、弓が弦によっておきる摩擦に負けて自然に発生するものなのです。この部分の理解はとても重要ですが、いったん理解してしまうと一生自分のものになります。左手はスポーツですが、右手は感覚で覚える部分があります。

          

          

以上2つの事は、後に詳しく説明しますがそんな理由で 『弓は浅く持つ』 なのです。
バイオリン・ビオラのプレーヤーは、ボーイングが縦方向に近いので、ほとんどこれに近い持ち方をしていると思います。チェリストの皆様も是非試してください。

では、前回の答えです。小指をフロッグより手前に持ってくれば、親指は放して弾けますよ。
では……。


Yoshihiro Yamazaki
2001.8.1.