バイオリン ビオラ チェロ 基本の取り扱いガイド 片付け・お手入れ編

前回の「準備編」に続き、片づけ・お手入れ編をお送りします。

ちょっと面倒臭かったり、急いでいたりすると怠りがちですが、一度身に付けばこちらも自然に身体が動く様になります。ぜひ片付けとお手入れも習慣にしてください。

前回の準備編をご覧になりたい方はこちらからどうぞ!

弓を緩める

準備編でも触れましたが、楽器を弾き終わった後は必ず弓を緩めましょう。

弓は本来まっすぐに作られており、最後の段階で熱を加えて曲げています。緩めることを怠ると、弓のそりが戻り、最終的にただの棒に戻ってしまいます。

また弓を張った状態で衝撃が加わると簡単に折れてしまいます。弓を長持ちさせるためにも、しっかり緩める習慣を身に付けましょう。

冬場によく起こることですが、緩めたつもりでいて、時間を空けてケースを開けると、弓が張っていることがあります。緩め方が甘いと、乾燥によって馬毛が縮んで弓が張ります。
季節、エアコンの使用、場所の移動など、湿度の変化が激しい時はいつもより気を付けてしっかり緩めましょう。

弓が緩まない

弓を緩めようとしてスクリューを回しても、一向に緩まらないことがあります。
主な原因として、

の2つが考えられます。

図の矢印の方向へ軽く力を加えることで、緩めることが可能な場合があります。

緩まないバイオリンの弓を緩めるための力を入れる方向

《注意!》
軽い力で動かない場合は、無理に力を加えないでください。
上手く動くと「カコッ」とスライドします。

棹とフロッグの接地面の動きが悪い場合、接地面に汚れが溜まっていたり、手汗で木が膨張している可能性があります。

手汗が十分に乾いてから、フロッグを棹から外してみましょう。毛を緩める方向へ回し続けると、オネジが抜けます。

金属のスライド部分や棹に汚れが付着している様なら、ティッシュなどで軽く拭き取ります。

パーツを外しスライド部分の汚れを落としているバイオリンの弓

この時、メネジの向きを変えない様に気を付けてください。軽い力では動きませんが、向きが変わってしまうと弓を正常に戻せなくなります。

汚れがある程度取れたら、フロッグを元に戻します。毛が回転していないかどうか気を付けながら戻しましょう。

弦は緩めなくていいの?

弦は緩めません。

厳密に言えば、コンスタントに弾き続けている楽器で、構造上繊細もしくは不安のある楽器でなければ、弦を緩める必要はありません。むしろ、弦を不必要に緩めることで、駒や魂柱が動く、倒れることの方が心配です。

表板が薄かったり、古い割れの多い楽器で、可能な限り負担を減らしてあげたい場合には、都度緩めることが楽器のためになることもあります。
また分数楽器をサイズアップで使わなくなり、次の出番まで時間が空く様なら、半音~1音程度緩めて力を少し抜いてあげると良いでしょう。
(完全に弦を取り外してしまうと、駒や魂柱の紛失に繋がるためおすすめしません)

楽器を拭く

楽器には、

が付着しています。
楽器を拭く布を2枚用意しましょう。松やに汚れ用と、それ以外用です。

松やには弦と表板 (主に指板と駒の間) に降り積もっています。弾いたすぐ後であれば、軽く布を滑らせるだけで拭えるはずです。弓の棹に付いていることもありますので、弓も拭きましょう。

松やに汚れが溜まる所を示したバイオリン

松やに汚れが取れたら、今度は手や身体が触った所を、別の布で拭きます。
ボディ、ネック、指板、あご当て、弓のフロッグなど、こちらもゴシゴシするのではなく、布を滑らせて磨くイメージで拭きます。

手垢や汗汚れが溜まる所を示したバイオリン

軽く拭っただけでは取れない汚れは、すでに通常のお手入れでは取れない汚れになっています。

松やには、空気中の湿気を吸ってベタっとした状態に変化し、そこにホコリやケース内の毛クズがくっつきます。その上からまた松やにが降り積もり…と繰り返していきます。

私はこれを「汚れのミルフィーユ」と呼んでいます。
 …ネーミングセンス最悪ですね。

市販のクリーナーなどもありますが、ニスを傷める可能性もあり取り扱いが難しいので、無理はせず楽器店を頼っていただければと思います。

汗をかいた時は

人が発している汗や湿気も、楽器は吸い込んでいます。
弾き終わった後すぐにケースにしまうと、金属部分 (アジャスター、チェロのテールガット、弓の金属スライドやラッピング) が錆びたり、カビやにおいの原因になることもあります。

演奏中たくさん汗をかいた時は、可能であればすぐにケースへしまうのではなく、楽器もクールダウンしてからケースに収納してあげてください。

ケースへの収納

バイオリン・ビオラの場合

コツというコツはなく、普通に出し入れする分には何も問題ありませんが、いくつか注意点があります。

Point!

ケースの内側のサイズを楽器に合わせる

主にビオラに関することです。

ビオラは、バイオリンやチェロの様に「子供用の分数サイズ」というものは存在しませんが、体格に合わせられる様、ボディの長さが38cm、39.5cm、41cm…と様々あります。

ビオラのケースは基本的に「大き目サイズ」が入る様に作ってあるため、小さ目のビオラを入れた時、ケースの中で楽器がガタつかない様、サイズをあわせましょう。
近頃のケースはほとんど、調整ができるようにネック部分が可動式であったり、クッションが付属していたりします。

※バイオリンにも、「7/8サイズ」「レディースサイズ」といった小さ目のバイオリンがあります。小さ目のバイオリンをお使いの方は、クッションを自作したり、ネック部分が可動式のケースを選択したりと、工夫して使ってらっしゃいます。

楽器と同じエリアに物を入れ過ぎない

楽器を演奏するために、意外と必要な小物類は多いもので、すき間というすき間にものを収納したくなる気持ちはとてもよく分かります。

こんな感じでしょうか。

楽器や弓以外に沢山小物が入れてあるバイオリンケース

鉛筆シャーペン、チューナーなどは持ち運んでいる際の振動で動きまわり、楽器を傷つける可能性がありますので、できれば入れない様に。写真の位置にチューナーを入れる場合、楽器を拭く布で良いので包んで収納すれば安心です。

弓の後ろ側 (ふたの内側) に写真や紙類を挟み込んでいる方が多くいます。
弓の負担にならない程度に、入れ過ぎないようにしましょう。

シャーペンやチューナーなど楽器を傷つけるものが入っているバイオリンケース内
弓の後ろに楽譜や写真が詰まっているバイオリンケース内

また結構やってしまいがちなのが、ボディの下に替え弦や布を敷き詰めること。
多少なら問題ありませんが、楽器の位置が上に持ち上がるため、ふたを閉めた時に駒がふた側に当たっている可能性がゼロではありません。駒、さらには表板に負担をかけることになりますので、こちらも何も入れないのがベストです。

バイオリンの下に替え弦などが敷き詰められているバイオリンケース内
バイオリンの下に隠れていた弦や布

チェロの場合

ここではハードケースについてお話します。

チェロのケースへの出し入れは、スペースの関係上、立てて行う人が多いかと思います。
可能であれば、きちんとケースを横倒しにしてから収納していただきたいですが、ケースを立てて収納する場合は、

Point!

ことを毎回心がけましょう。

チェロが手前に出ている状態でふたを閉めると、こちらもバイオリン同様、駒がフタ側に当たってしまいます。駒や表板に負担がかかる状態ですので気を付けましょう。

ケースに下部から収納されるチェロ

ケースへは、

①おしり (楽器下部) からケースへ入れ、次に ②ネックを留める

という順で入れます。これはケースを横倒しにしている時も同じ動作になります。最後に上記Pointの通り、しっかり背面まで押し込まれているか確認しましょう。

ふたを閉じる際にもポイントがあります。

Point!

立てた状態のケースはチェロの重みで歪んでいることが多く、そのまま閉めようとしても、どこかがきちんとはまらないことがあります。

おすすめは、チェロケースを少し後ろに倒し、フタ側が完全に浮いた状態で閉じる方法です。ネック部分を持ち、持ち上げて閉じる人もいます。

フタを浮かせることで閉めやすくなるチェロケース

金具を閉める際は端から順々に閉めていくのではなく、あちこち不規則に閉めることをおすすめします。不規則な順に閉めた方が、フタが歪んで閉じていた場合に、修正しながら金具を閉められるからです。

閉め忘れが無いように、最後にぐるっと確認をしましょう。

ケースが歪んだ状態で無理に閉めていると、パッキン部分が変形したり、ケース本体が変形してますます閉まりにくくなり悪循環となります。
最近はチェロのハードケースも手に入り易い価格の物が充実してきましたが、それでも高価なものに変わりはありませんので、ケースも長持ちするよう心掛けましょう。

弓先は上か下か

チェロのハードケースをお使いの方で、「弓先は下向きに収納するのか、上向きに収納するのか」との質問を受けることがあります。

ケースのメーカーはほとんど、弓先を下向きに収納することを想定して作っていると思われます。
それは各社のカタログの画像で、弓の収納の向きを見ることでも分かります。

また、ケースを立てたまま収納する際、弓先を上にしようとすると弓を大きく反転して持ち替える必要がありますので、より自然に少ない動作 (=フロッグの方を持ったまま) で収納した方が、安全と考えます。

さらに付け加えますと、弓のホルダー部分がマジックテープの場合、接着面が経年でヘタっていたり、きちんとくっつけることを忘れたりすると、移動時にケース内で弓が暴れます。それが弓先だった場合、ダメージが心配されます。

以上の理由から、「弓先は下向きに収納する」とお答えしています。

※日本で一般的に流通しているケースを元にしています。私が知らないだけで、弓先を上向きに収納するタイプのケースもあるのかもしれません。もし「そういうハードケースを知っているよ」という方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください!

「片付け・お手入れ編」をお送りしました。

ゆっくりお手入れをしながら楽器を眺める時間を作ることで、楽器の些細な変化や異変に気が付きやすくなります。音楽を楽しませてくれる相棒なのですから、ちょっとの時間は惜しまず、お手入れしてあげてください。その方が楽器も喜んで良い音を鳴らしてくれるかも…!

※実際、「汚れのミルフィーユ」が乗っかっている楽器は鳴りが押さえこまれている傾向があるため、汚れを溜め込まないことは、楽器の鳴りをキープすることに繋がります。

次は「保管・セルフチェック編」をお届けする予定です。

普段からのお手入れとチェックポイントを押さえ、良い状態を長くキープして楽器を楽しんでいただくこと

これこそ、このコラムを書き始めたきっかけです。少しでもお役に立つようでしたら嬉しい限りです。