バイオリン ビオラ チェロ 基本の取り扱いガイド セルフチェック編

楽器は様々な要因で、状態が常に変わっています。
それは季節的なものであったり、中長期的な経年変化であったり、使い方によるものであったり…。そして、分かり易い変化や不調もあれば、トラブルに発展するまで気が付きにくいものもあります。
また意外にも、弓の毛や弦等、消耗部品の交換のタイミングを計りかねている方も多くいらっしゃいます。

基本の取り扱いガイド、最終回は「セルフチェック編」をお届けいたします。

変化や不調を可能な限り見落とさず、また自分でできるケアと、楽器店に頼った方が良い症状等、ご自身の判断材料を増やし、より良い楽器との付き合い方ができる様になっていただければ、嬉しく思います。

当ホームページの「修理・調整」のページでもメンテナンスについてご説明しておりますので、合わせてご覧ください。

弦のチェックポイント①

音の劣化

楽器に張った弦は、時間が経つごとに音が劣化 (へたる、響かない、音量が出ない等) していきます。音に敏感な方は、張りたての頃に比べて音が劣化していくのを感じ取ることもあります。
パフォーマンスが落ちたなと感じることがあれば、弦の交換時期でしょう。

弦のチェックポイント②

巻き線の緩み / 傷み

ナット (前駒) と駒にのっかっている所の弦を見てみましょう。弦はバイオリンのE線以外、ほとんどが巻き線になりますが、ナットと駒の上にのる位置が一番傷みやすく、巻き線が緩んだり、ほつれたりしていきます。

突然切れる可能性があるだけでなく、楽器側 (ナット、駒) を傷つける要因にもなりますので、早めに交換しましょう。

上記チェックポイントの他、一つの目安として、どんなに練習していてもしていなくても「最低でも1年に1回は交換」をおすすめしています。

症状別確認ポイント

小見出しをクリックすると詳細が表示されます。

弦ののっかっているナット (前駒) もしくは駒の位置で切れる場合、糸道の形状が悪く、弦を傷つけている可能性があります。楽器店へご相談ください。

弓の馬毛

馬毛のチェックポイント①

ひっかかり具合

馬のしっぽの毛は人の髪の毛と一緒で、うろこ状のキューティクルに覆われており、それらがひっかかることによって音が出ます。使用していくにつれ、キューティクルが剥がれていきますので、松やにを塗ってもひっかかりが悪い様なら交換が必要です。

馬毛のチェックポイント②

弓を緩めた時の馬毛の様子

弓を緩めた時に、馬毛が大きくたるむ様でしたら毛替えをおすすめします。
ひっかかりが残っていてまだ弾ける状態であったとしても、毛が長くなっているため、弓を張った際にフロッグ (毛箱) の位置が通常よりも後ろにきます。弓のバランスが変わるので、演奏のパフォーマンスにも影響します。

馬毛のチェックポイント③

切れた馬毛の量

熱の入った演奏をしている時など、弓の毛が1、2本切れることはよくあります。数本程度でしたら問題ありませんが、たまに、弾き側の毛がごっそり無い状態で使用している方がいます。
弓を張った時、棹に力が均等にかからないので、棹の曲がりの原因になってしまいます。早めに毛替えを行いましょう。

なお毛が切れた時、絶対に引っこ抜かないで、ハサミなどで切る様にしましょう。
弓の毛は、毛束を紐で括って、ヘッドや毛箱に納まっています。毛を引っこ抜いてしまうと、括った毛束に隙間が生じ、他の毛がヘッドや毛箱から出てきてしまいます。

弓の毛も時間経過と共に毛質が固くなり、パフォーマンスに影響が出てきますので、弾く量に限らず、1年に1度は毛替えをおすすめしています。

症状別確認ポイント

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汚れや油分が付着すると、その場所は弦にひっかからず音が出なくなります。ティッシュ等で拭き取り松やにを塗ってみてください。それでも音が出なければ、毛替えを検討してください。

毛が伸びてしまっていて、フロッグを引っ張る力が残っていないと緩まないことがあります。毛替えのサインでもありますが、こちらの方法を試してみてください。【基本の取り扱いガイド 片付け・お掃除編】

馬毛が乾燥により縮んでいると、緩まないことがあります 。湿度を上げてみてください。

フロッグの中のメネジがねじ切れて、空回りしている可能性があります。パーツの交換が必要です。


虫害かどうかの判断ポイントや対策について、こちらもご参考ください。【基本の取り扱いガイド 保管編】

ペグ

ペグの動きに不調がある場合、原因は「季節変化」と「経年変化」の2つあります。

ペグのチェックポイント①

季節変化

冬は乾燥しているためにペグが止まりにくく、梅雨や夏は多湿によって木が膨張し、ペグが固くなる傾向があります。
季節の変化に伴って不具合を感じた場合、湿度の管理を行ってください。
梅雨時期にペグが固くて回しづらい場合、コンポジション材が有効です。

ペグのチェックポイント②

経年変化

季節を問わず、以前よりペグの止まりが悪くなった、使い辛くなったと感じる場合は経年変化による不具合です。
ペグとペグ穴は経年によってフィッティングが合わなくなっていきます。コンポジション材を使うことで自分でも多少の調整が可能ですが、加工が必要な場合もあります。

いずれにしても、自分での対処が難しければ楽器店にご相談ください。

症状別確認ポイント

※季節/経年変化以外。小見出しをクリックすると詳細が表示されます。

ペグの巻き終わりの角度を写真の向きに調整することで、構えながらの調弦が楽になります。

正しい弦の張り方をしていないと、ペグが止まらなかったり、弦が抜けてくるために調弦が安定しません。
ペグ本体に開いている穴に弦を差し入れたのち、直ぐに巻き取り始めるのではなく、1周分、反対側に巻いてからつまみ側へ巻き取っていきます。巻き取る時、ペグボックスの壁に寄せる様にすることで、ペグが抜けにくくなり止まりが良くなります。

駒は表板に接着されているわけではないので、力が加われば位置が変わってしまいます。また、ペグで弦を常に巻き取っているため、ペグ側に傾きやすい傾向があります。

「よく耐えたね…」と思わず労いたくなる駒をお見掛けすることがあります。
良い状態をキープできればそれだけ長持ちさせられますし、弦の振動を楽器へ伝える重要なパーツですので、状態確認を習慣付けましょう。

駒のチェックポイント①

楽器正面から見た位置

おおむね、f字孔の内側の刻みの間、そして指板の延長線上に位置します。

ただし注意していただきたいのが、前述した位置から意図的にズレている場合があるということです。
駒位置は楽器全体のバランスを踏まえて導き出されているため、あくまで目安としてお考えください。

私は、楽器店帰りに駒位置の写真を残しておくことをおすすめしています。

明らかにズレた、音が変わったなどの変化を感じたら、楽器店へお持ちください。

駒のチェックポイント②

横から見た角度

駒を横から見て、テールピース側の背中が表板に対して90度に立っていることが基本です。

また、駒の足が浮いていないかどうかもチェックのポイントです。

駒が傾いていることが分かったら、安定した場所で角度を直しましょう。万が一駒が倒れた時のために、テールピースの下に布を挟み、エンドピン側から頭を少しづつ引っ張り起こしてあげます。駒位置がずれないように注意しましょう。

チェロの駒起こしは未だにドキドキします…

事務職ではありますが、5年勤めている私でもおっかなびっくりな有様ですので、難しいと感じたら無理はせず、楽器店を頼ってください。

症状別確認ポイント

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駒の上の弦の動きがスムーズでないと、ペグ側へ引っ張られやすくなります。
普段から弾き終わりに弦を拭くこと、また弦交換をする際、糸道に滑りの良いもの (鉛筆の粉、ろうそく等) を塗っておくと、駒が引っ張られるのを緩和してくれます。

駒が傾いたままの状態が続くと、駒が変形し真っすぐ立っていられなくなります。

こちらは傾いていた駒を起こした時の写真です。長らく斜めに立っていたために、指板側の足裏が潰れており、駒を起こすと足の一部が浮く様子がよくわかります。

足裏以外にも、駒本体が変形していることもあり、加工もしくは交換が必要になります。

はがれ

たまにで良いので、楽器の接着面 (表板と側板、裏板と側板等) がはがれていないかチェックしてください。目視で発見されなければ、あとは定期的に点検へ出すので十分です。
逆に、目視で発見できるほどはがれている場合は早めに楽器店へお持ちください。はがれた状態で時間が経つと、楽器が変形してピッタリと戻らなくなる可能性があります。

見逃しがちなのが、エンドピン辺りの裏板のはがれです。チェロは特に、まじまじ見る機会が少ない場所ではないでしょうか。力がかかっている所なので、気が付くのが遅れると側板が裏板よりとび出した状態となり、戻し入れるのに時間がかかったり、最悪、裏板のフチがない状態で接着せざるを得ない場合もあります。

ニス

ニスのチェックポイント①

身体が当たる所のニス

バイオリン・ビオラだと楽器の左肩、あご当て周辺、チェロは楽器の両肩、特にフチが摩耗しやすいところです。

身体があたる所のニスが無くなると、汗や汚れが楽器に浸み込み変形の原因となりますので、早めにニスのリタッチを検討しましょう。

ニスのチェックポイント②

ぶつけやすい、擦りやすい所のニス

楽器のフチはニスの欠けが起こりやすい所です。
特に気を付けていただきたいのが、ニスの保護が無くなった所の木がささくれ、洋服などをひっかけやすい状態になることです。

実際、この場所に洋服をひっかけ、板が大きく割れて取れてしまうといったトラブルも発生しています。フチのニスが多く欠けている、ささくれ立っている場合は、楽器の保護のためにニスのリタッチを検討しましょう。

雑音

雑音で楽器をお持込みになる方が多くいらっしゃいます。
突然、ビリビリ、ザラザラ、ビーンといった音が出始めたらびっくりしますし、楽器に何か不具合が起きている可能性も大いにあります。ただ、思いがけない理由で雑音が発生していることもあり、自分で気が付くことができれば、楽器店に持って行く手間も必要ないことも多いのが「雑音」です。

確認ポイントをまとめましたので、慌てずに一つずつ確認してみましょう。

症状別確認ポイント

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普段、ペグよりアジャスターを多用している方に多いのが、アジャスターが緩みすぎて共振している状態です。アジャスターが効く位置まで戻しましょう。またテールピースに固定する部分の金具が緩んでいる場合がありますので、確認しましょう。

左手のポジションの目印に貼ったテープやシールは、貼った直後は良くても、はがれかけてくると弦に当たって雑音の原因になっている方が多くいます。

あご当てがテールピースに接触している状態だと、雑音が発生します。
あご当ては楽器との間にコルクを挟んで取り付けてあるので、コルクが潰れてくるとあご当てが動くことがあります。金具 (タル) が緩んでもズレますしこれ自体が雑音の原因になることもあります。あご当ての位置を直しましょう。道具が無かったりご自身で難しい場合は気軽に楽器店へご依頼ください。

弦が古かったり傷んでいると雑音が出ることがあります。1年以上交換していないなら、交換してみましょう。
また松やにがこびりついていると、ガサガサ、ザリザリした音が出やすくなります。練習後はきちんと拭き取りましょう。拭えなくなった松やには、爪を使ってこそげ落とすか、専用のクリーナーを使用してみましょう。

特定の条件下でのみ雑音が発生している場合は、楽器以外の要因も疑ってみてください。実際、使用していた譜面台の金具が原因だったという事例もありました。楽器から聞こえるのか、空間から聞こえるのか、耳を澄まして確認しましょう。

上記した以外の雑音の原因は多く考えられますが、確認ポイントを改善しても雑音が収まらない場合は、楽器の構造上の問題が発生している可能性があります。
(具体的には、はがれ、割れ、駒位置角度の不具合、指板のでこぼこなどが挙げられます。)

雑音が出ている時に楽器店へご相談ください。

最後にもう一つ、「こんなことで楽器店を頼っていいのかしら?」と思わず、何かおかしいかもと感じた時には遠慮なくご相談いただきたいと思っています。
そして特に気になることが無くても、1年に1回、健康診断だと思ってぜひ楽器を点検に出してください。

4回に渡ってお届けしました「基本の取り扱いガイド」は、ひとまず完結となります。「初心者が楽器の取り扱いについて、これを読んでおけば最低限大丈夫!」という内容を目指して執筆してみましたがいかがだったでしょうか?

楽器について「ぜひこれについて知りたい」「教えてほしい」というようなことがありましたら、ぜひお声かけください。

今後は、楽器に関することはもちろん、工房のお仕事の様子や、弦・小物のご紹介など、コンテンツを増やしていく予定ですので、たまに覗いてみていただければ幸いです。