27. スピッカート ①

スタッカートと一字しか違わないので、なんとなく混同している方もいると思いますが、スタッカートとスピッカートは、はっきり違います。

スピッカートには、個人的に特別な思い出があるので、ちょっと書きます。プロを目指しているチェリストにとって、ちょっと恥かしいほろ苦い思い出です。

私は音楽大学を5年かかって (山狂いをしていた) 卒業した後、当時本当に難関だった日本フィルのオーディションに挑みました。オーディションは、自由曲を一曲演奏後、〝新曲視奏〟と言っていわゆる〝初見〟でオーケストラの色々なチェロパートを十数曲弾かされますが、チャイコフスキーの速いパッセージで、スピッカートがうまく弾けませんでした。

〝やべぇ〟と思ったら、当時チェロ首席のTさんが自分の弓を出してきて、「これで弾いてみて下さい。」と言って、T氏のチェロの弓を渡されました。その弓をお借りして、そのチャイコフスキーの速いスピッカートを弾くことが出来、無事日本フィルに入団することが出来ました。今でも本当にT氏には感謝しています。入団後、当時コンサートマスターだったG氏のお世話で、直ちに弓を買い換えたのは、言うまでも有りません。

私の経験からも、このスピッカートは弓のバランスが悪いと絶対に飛びません。値段が高い、安いとも全く関係有りません。スピッカートは、その弓自身のバランスの良し悪しに関係してくるのです。ですから、弓を選ぶ時の重要な要素の一つになってきます。これだけは、弾かないと解りません。

また、弓を換えた時、G氏が「スピッカートは1、2時間のレッスンでマスターできる奏法だ。」ともおっしゃっていた事を覚えています。日本フィルに入団後、しゃにむにスピッカートを勉強しました。

Yoshihiro Yamazaki
2003.8.5

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